§ハーヴェストの朝§
2005.4.13
 もう4年になるだろうか・・・・・。
 ハーヴェストの一日は、一人の紳士なお客様から始まる。
失礼だがお年は70代後半?
いや自分の父と比較しても80歳位になっているように見受けられる。

 そのお客様との出会いは衝撃だった。
お店の開店時間は10時半。開店と同時に来店された。
席にご案内しメニューを渡してもメニューには目もくれず、
「軽めのお茶をいただけますか?」との問いだった。
すかさずスリランカ産でも、一番軽いキャンディ茶をおすすめした。

次の「少し軽く飲みたいのですが、お湯は付きますか?」
というお客様の言葉に驚き、一瞬、間が出来たが
「ハイ、熱いお湯をお出しします。」そう言ってティーメイクをした。
長い間紅茶専門店を経営していたが、お湯を使いこなせるのか心配になった。


 少し専門的な説明をすると、
当店の紅茶はホットティーに関しては、
すべてポットサービスでその量は350cc、ティーカップで約2杯半ある。

お湯は、※“ホットウォータージャグ”と言い、
通常は家庭や、数人で飲む場合は
好みや楽しみ方が異なるので初めからサービスされるが、
当店の場合は、強いキャラクターのお茶を選んだお客様に対してや、
2杯目を注ぐ位に少し小さめのポットでサービスするように心掛けている。

どのように使いこなすのか興味があり、気付かれないようにチラチラと見ていたが、
お茶を飲むしぐさは実にカッコイイ。
この紳士なお客様は初めからティーを楽しむスタイルを知っていたのである。

サービスをする為に席に向かうと、
小さなメモ用紙に全て英語で詩のようなものを書いている。
 その内、ティーフードもオーダーが入るようになった。
ティーはいつものスリランカ・キャンディ茶、
フードは当店のメインフード、紅茶のシロップのかかったワッフルでブレックファースト・・・・・。

通い始めてから1年位経つとワッフルからスコーンへとフードは変わったが、
朝、開店の10時半に来店し、オーダーは「いつもので・・・・」と
言いながら座るのは3番の席と決まっている。

 そんな日が初めての来店以来続いている。私も必死だ。
それまでは、開店10分位前に冷暖房のスイッチを入れていたが、
少しでも店内のコンディションが良くなるようにと、30分前に入れるようにし、
開店も2〜3分前には看板を出すようにした。
(開店時間の10時半に看板を出しに外にでたら何度も鉢合わせをし
気まずい雰囲気になった事がたびたび。)

たま〜に2〜3週間いらっしゃらない時があり、体調でも悪いのだろうか?
もしかして不手際があったのではないだろうか、などと心配していたが、
だいたいが「旅行に行っていました。」と聞いてもいないのに理由を教えてくれる。
もしかしたら私の顔に不安げな様子が書いてあったのかもしれない、
と思いながらも安心するのである。

 ただ、今でも4年前と何も変わらないし、何も知らない。
年齢はおろか何をしている方なのか、英語のメモは何を書いているのか・・・・・。
一度ゆっくり世間話でもしたいと思うのだが、
私はひたすらお客様のティータイムのリズムを崩さぬよう、
不手際が無いよう努めるだけである。

 これがハーヴェストの朝の風景だ。
そしてあわただしくなるお昼の前には、右手にレシートを持ち、
「ごちそうさま」と言いながら手を振って帰って行く。

 北海道の冬は厳しい。
しかし明日の朝も店内を暖かくしてお待ちしております。
もちろんポットやカップも温めて・・・・・。


 ※カップに注いだ紅茶を好みの濃さで楽しめるように調節するお湯差し。
  紅茶と一緒に用意される。
2004―2005 冬  紅茶専門店ハーヴェスト  松川
ダイヤモンドダスト画像提供:『 BIRD&FISH CARVING GALLERY2』
雪だるま画像提供:『 The HIKONE Photo Gallery』


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